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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)368号 判決 1975年10月28日

控訴人

株式会社丸茂商店破産管財人

遠藤良平

右訴訟代理人

遠藤昌延

被控訴人

大黒食品工業株式会社

右代表者

竹村弘

右訴訟代理人

松沢清

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人に対し金三九万六、五〇五円及びこれに対する昭和四六年七月八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は第一、二とも被訴訟人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人主張の請求原因事実については、当事者間に争いがない。

そこで、被訴人の抗弁1につき審按するに、本件につき取り調べた全証拠によつても、右抗弁事実を認定することができない。すなわち、右主張事実に副う証拠としては、原審における被控訴人代表者竹村弘尋問の結果(第二回)によつて真正に成立したと認めうる乙第二号証及び右本人尋問の結果があるところ、右供述は、それ自体必ずしも被控訴人が主張する日時に訴外会社の合意を得て滅額がなされたことを証しえないものであるばかりでなく、同人のこの点に関する供述は、暖味で自信がなく、前掲乙第二号証(被控訴人の仕入台帳)の中右抗弁事実を証する記載部分は、右本人尋問の結果からも、訴外会社が倒産後被控訴会社が訴外会社の意思も十分確かめず、適当に記入したものであることが窺われるので、これら事実に弁論の全趣旨を総合すると、前掲書証と本人尋問の結果は共に証拠として採用し難く、他に前記抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、被控訴人の抗弁1は理由がない。

次に、抗弁2及び再抗弁につき判断する。

被控訴人が、右各抗弁において主張する債権譲渡の事実が証拠により認定しうるか否かは暫く措き、右抗弁に対し、控訴人が民法四六七条二項の「第三者」に該当するか否かにつき検討するに、右主張事実及び前記請求原因事実によれば、本件は、訴外会社が債権譲渡をした後確定日附ある証拠による通知をする前破産宣告を受けた場合に相当する。

一般に、債権者が破産すれば、当時破産者の有した執行しうべき財産は、破産財団となり、破産管財人の管理処分に属し、破産債権者全体のために差押えられたのと同視すべきであるから、破産管財人は、譲渡債権の差押債権者と同様の立場に立つと考えられる。そうとすれば、破産管財人は、破産者が債権者となつている譲渡債権につき債権譲渡受人と相両立しえない法律的地位を取得した者というべきであるから、正に、右条項にいう「第三者」に該当し、前記債権譲渡における譲受人は民法四六七条二項所定の対抗要件を具備することなくしては、破産管財人にこれを対抗しえず、従つて右譲渡債権の債務者もまた破産管財人に対し債権譲渡の事実を主張しえないと解するのが相当である。

然るに、被控訴人主張の各債権譲渡につき被控訴人に対してなされたとする通知(但し、右債権譲渡及び通知は当裁判所の認定した事実ではない。)が、確定日付ある証書によつてなされたものではないことは、被控訴人の自認するところであり、他に前記対抗要件を充足する事実については主張も立証もない。

従つて、被控訴人が抗弁2において主張する債権譲渡の事実は、控訴人に対抗しえないというべく、結局抗弁2も理由がないことに帰する。

二以上の次第であるから、被控訴人は訴外会社の破産管財人たる控訴人に対し、前記請求原因事実に基づき売掛代金残金として金三九万六、五〇五円及びこれに対する約定の弁済期日以後であること明らかな、昭和四六年七月八日から支払済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務ありというべく、右義務の履行を求める控訴人の被控訴人に対する本訴請求は正当で、これと趣を異にする原判決は変更を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九六条及び八九条を適用して主文のとおり判決する。

(吉岡進 兼子徹夫 太田豊)

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